概要 1、猫にとってユリは、不可逆的な腎臓の尿細管損傷及び壊死を引き起こし致命的な中毒を起こす。
2、ユリの中でもテッポウユリ、オニユリ、コオニユリ、鹿の子百合、キスゲの5種類は猛毒であり、この他カサブランカ、イースターリリーも中毒を起こす。
3、ユリの葉、茎、花弁を噛んだり、食べたり、花粉を舐めたり、ユリを入れた花瓶の水を飲んでも同様な中毒を起こす。
4、摂取量にもよるが、治療になかなか反応せず一週間前後で死亡する。
5、食べたり、飲んだ直後であれば、直ちに嘔吐させるか胃洗浄を行うことにより救命できることもある。
6、猫にとって中毒を引き起こす危険植物は、700種類以上あると言われていることから、室内に観葉植物等を置く場合十分な注意が必要である。
動物の玉ネギ中毒については比較的多くの人に知られていますが、猫のユリ中毒についてはあまり知られていません。
猫は新しいものには何にでも興味を示す動物で、花を飾ったり新しく物を置いたりすると、必ず舐めてみたり噛んでみたりします。こうしたことが思わぬ事故につながります。
私が最近経験した例で、飼っている猫がいつもと違い何かおかしいのと、2回嘔吐したとのことで来院、いろいろ検査しても原因が全くわからず、ひとまず嘔吐を止める処置を行い、次の日にもう一度診察することで帰宅、翌日血液検査の結果を見てビックリ、腎臓がほとんど動いていない状態で、昨日の朝まで何の異常もなく元気そのものであったのが、一晩のうちに突然尿毒症状態に陥っているのです。
まず考えられるのは腎毒性の何かを食べたことによる中毒が強く示唆されます。思い当たることがないかいろいろ聞きますが、何も考えられないとのこと。
ひとまず入院させ点滴を開始、飼い主さんに家に帰って何か普段と違うことが ないかを調べるようお願いする。間もなく飼い主さんから電話が入り、なにも思い当たることはないが、ただ変ったことと言えば、一昨日親戚で法事があり、ユリの花を持ち帰り飾っているとのこと。原因はそれだ、すぐ花弁や葉っぱに猫が噛んだ跡がないか調べてもらうと、やはり葉っぱのあちこちに噛んだと思われる歯型痕や花弁の一部がなくなっているとのことで、胃洗浄するには時間が経ち過ぎています。後は透析しか方法はありません。すぐ大学病院に緊急入院を依頼、直ちに点滴をしながら大阪府立大学付属獣医臨床センターに搬送、様々な治療が試みられたが5日後(ユリを食べてから8日後)治療の甲斐なく天国へ旅立ってしまいました。
後日病理検査結果で急性腎障害(acute renal injury)と診断され、尿細管に壊死、剥離、変性が見られ、急性の尿細管損傷・壊死と脾臓、肺に溶血性の変化及び心筋には出血が認められ、死因は明らかに中毒性(溶血、腎毒性)疾患であるとの報告が届きました。 |